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「アタシたちには『例外』なんてないってことね」
「……グレル・サトクリフ、無駄口を叩く暇があるのなら早くその書類を仕上げなさい」
「ほら、これだってウィルにとってはただの紙でしかないってことでしょ?」
まるで頬を打つようにグレルは机の上の書類をウィリアムに示した。一方彼はといえばその音に微かに眉を顰めただけで、書類の内容にはさほど興味をしめすことなく自身の手帳に目を落とす。その仕草にますます機嫌を損ねたグレルは、ヒールを鳴らしながら立ち上がると手袋をした手でウィリアムの顎をくいと持ち上げた。
「あまり音をたてないように、グレル・サトクリフ」
「レディがそんなことをしたらいけません、ってこと?なら光栄だわ」
「他の職員の迷惑です」
「……そうね。じゃあ察しの悪いウィルのために早く機嫌を直す方法を教えてあげる。――この書類は、何の書類かわかる?」
「エリックとアランの事件でしょう?」
「そう。アタシの愛しいセバスちゃんに殺された2人の書類。……ねえウィル、貴方はこれを見ても何も思わないの?何の感情もわかないの?貴方にとって、例外はないの?」
ウィリアムは机上の書類を一瞥すると、再び眉を顰めた。愚問ですね。低い声で言いながら、グレルの手を払いのける。
「愚問?これが、愚問だっていうの?」
「えぇ、愚問です。彼らはもう居ない。泣いても嘆いても、後悔しても戻っては来ない。――それは、死神である貴方が一番良くわかっていることでしょう?」
「でも、」
「でも、じゃないですよ、グレル・サトクリフ。一体どれだけの仕事をためていると思っているんです?……まったく」
不機嫌そうに眼鏡を押し上げると、無言で仕事を進めるよう促す。まだ何か言いたげな様子だったグレルも、深く息を吐くと、大人しく自分の席に着いた。
それを見て満足したのか、ウィリアムはグレルに背を向けた――が、不意に足を止め、そのままの姿勢で彼の名前を呼ぶ。
「……ああ、そうだ。グレル・サトクリフ」
「何よ」
「貴方のことですから、きっと『自分が死の棘に冒されたら』なんてくだらないことを考えているんでしょう」
「……だったら何?」
「安心しなさい。その時は、害獣よりも早く、死の病より早く――私が殺してさしあげます」
とろけるようにあまい、残酷な言葉が
また一歩、死の淵へと追いやる。
「愛している」よりも深い、凶悪な愛に満ちた言葉で。
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